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配偶者控除廃止論の混乱

配偶者控除の見直し問題は、まだまだ続きそうである。

そもそも配偶者控除の廃止論は、複数の異なった目的というか観点が混在しており、それが混乱を招いていると言えるだろう。

整理すると、配偶者控除廃止論の目的(または期待される効果)としていちおう考えられるのは

(1)税収の確保(増税)

(2)一定程度以上働く女性とそうでない女性との不公平感の解消

(3)女性の社会進出の障害の解消

の3つであろう。(制度としては、配偶者控除は男性でも女性でも受けられるのだが、ここではいちおう例によって、夫がメインで働いている状況を前提とする。)

このうち(1)は言うまでもなく明らかである。増税の是非はともかくとして、実際問題として、現に配偶者控除を廃止すれば税収が増えるのは当然のことである。

(2)も理解できる。最初からフルで働いている妻が何の控除も受けられないのに、そうでない妻が控除を受けられるのは不公平だ、という考えはスジが通ってはいる。

 一般に、利益の有無で不公平が発生している場合、その不公平を解消する手段としては、①恵まれていない者にも利益を与えて底上げする方法と、②恵まれている者の利益を剥奪して引きずり降ろす方法と、2種類あるのだが、配偶者控除廃止論は、②の方法を主張していることになる。ただ、これとは別に、世帯の収入の多寡にかかわらず“夫婦控除”を導入するという案もあるが、これは①の方法である。①のほうが誰も現状より悪くならないという意味では望ましいとは思うが、実際問題として財源をどうするのかという困難に直面する。

一方、(3)はどうか。「配偶者控除は女性の社会進出(労働)の障害になっている」という主張は、比喩的にいえば、次のような状況を考えてみると良い。

2つの隣り合った部屋があり、片方には暖房がついていて、もう片方には暖房がなく寒い。暖房のある部屋に人が大勢こもっていて、隣の寒い部屋に行こうとしない。しかし政策としては、寒い部屋に移る人を増やしたい。どうすれば良いか。
一つの方法は、寒い部屋にも暖房を入れることである。そうなれば、隣のその部屋に移る人が出てくるだろう。
もう一つの方法は、暖房のついた部屋の暖房を切って、隣と同じ程度に寒くすることである。そうなれば、どちらの部屋に行っても寒いのだから、隣の部屋に移る人がやはり出てくるだろう。

この例でいうと、暖かい部屋から寒い部屋に人が移動するのを妨げているのは、片方の部屋が寒いからだとも言えるし、もう片方の部屋が暖かいからだとも言える。しかし、どちらかというと「妨げ」「障害」という言葉を使う場合は、不利益とか不快な要素などがある場合に用いるのが普通だろう。そうなると、「片方の部屋が暖かいこと」ではなく「もう片方の部屋が寒いこと」の方が、「障害」と呼ぶにふさわしいのではないだろうか。

だが、「配偶者控除廃止によって女性の社会進出の障害が取り除かれる」という主張は、この後者の、暖房のある方の部屋の暖房スイッチを切って寒くして、隣の部屋に移らせろということである。

問題はもう一つある。女性の就労を妨げているのは、配偶者控除の有無がメインの要因なのだろうか。

以前の記事で何度も書いたことをここで繰り返すが、たとえば - 年収が増えると不利になるという、いわゆる「年収の壁」を、ここで130万円だと仮定した場合 - 130万円以内の収入の就労しかしていない女性は、配偶者控除の恩恵を失いたくないことがメインの理由なのだろうか。配偶者控除が仮になかったら、年収500万円とか600万円とか、さらにはそれ以上バリバリ働くようになるのだろうか。

おそらくほとんどの場合は、そういうことではないだろう。年収130万円以下に抑えている妻は、子育てや家事やその他の客観的な制約要因があるために十分働くことができず、労働時間も短くして、さらにそのうえで配偶者控除の恩恵も受けられるように調整しているのである。配偶者控除「だけ」が無くなったとしても、それ以外の制約要因が変わらない限り、年収130万円以下が、せいぜい140万円とか160万円になる程度だろう。

そう考えると、配偶者控除廃止論の3つの目的のうち、(3)は説得力があるとは言えないのである。配偶者控除廃止論を主張するならば、(3)は引っ込めて、(1)(2)の部分を前面に出すべきであろう。「税収を増やす必要があるため配偶者控除を廃止しよう」「働く妻と専業主婦の間で不公平があるから、(恩恵を受けている専業主婦の方を引きずり降ろす形で)その不公平を解消するため、配偶者控除を廃止しよう」と主張するべきである。

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