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小池和男「『非正規労働』を考える」(名古屋大学出版会)

小池和男「『非正規労働』を考える 戦後労働史の視角から」についての感想。

まず、「はしがき」に書かれている著者の問題意識というか執筆の動機を見てみよう。

「なぜこの本を書いたか。それも文字通り老い先短い身があえて書いた理由は、当今の非正規労働の議論への懸念である。あまりに市場での競争力 - ひとびとの雇用とくらしを支える力を無視しているのではないか、との心配にある。・・・いうまでもなく、非正規労働には弊害もある。だからといって、非正規労働をなくせば、それですむ、というものではない。そこに経済合理性がある分、競争力を失い、苦しい失業が増えすぎるだろう。合理性を活かしつつ、弊害をすくなくする、そうした方策をさぐるほかあるまい。では、どうしたらよいか。それは本文をお読みいただきたい。老人の知恵をしぼって考えた結果である。」

このように、著者の基本的スタンスは、昨今の非正規労働に対する批判を意識しつつ、それに合理性があることを論証しながら弊害の対策も考える、ということである。

著者によれば、非正規労働が有している具体的な「合理性」というか「機能」は、①人材選別機能、②雇用調整機能、③低技能分野担当機能の3つだという。

①は、たとえば正社員を採用するのに、いきなり面接などで採用するよりも、非正社員で採用しておいて仕事を経験させ、その働きをみて能力のある者を正社員に登用するということである。
②は、解雇により削減しやすい等である。(いうまでもなく「季節従業員」とか「期間工」という呼称自体が、短期的スパンでの雇用量の調整を前提としているだろう。)
③は、熟練性が低い・技能向上の見込の乏しい仕事を担当させるということである。私なりに解釈すると、「“付加価値”が低い仕事は派遣や外注にやらせるべきだ」などと企業で言われることがあるが、そのようなケースだろう。

ただ、これらは非正規労働の「機能」というよりも、むしろ、使用者が非正規労働を利用する「目的」「動機」と言った方が適切なのではないかと思う。著者も「ユーザーにとっての機能」(本書175頁)という言い方をしているが、まさに「ユーザー」=文字通りの意味で「使用者」である。

いずれにしても、これらの①②③の機能なり目的が何かしら非正規労働に関して存在しているということ自体は、それほど一般に異論はないのではないかと思う。というより、それほど目新しい話ではないのではないだろうか。
(厳密にいうと、①の選別機能には、最初から正社員選別のためにまず非正規で雇用する場合と、結果的に非正規の中の認められた者が正社員に登用された場合と、両方あるだろう。)

さて、これら①②③に加えて、非正規労働というものには、企業が人件費等を削減するという④低コスト機能もあるのではないか、という疑問が出てきそうである。厳密に考えると①との区別が微妙になってきそうだが、賃金だけでなく福利厚生や退職金等や採用・解雇のコストも含めた意味で、正社員より低コストで同じ仕事をさせられるという意味の低コスト機能があるのではないかと考えたくなってくる。

ところが著者は、この④の低コスト機能については、なぜか断固として否定するのである。

著者によれば、同じ仕事で非正規労働の方が低コストをもたらすならば、市場競争のもとでは正社員は消滅し、全員を非正規とした企業が生き残るはずだ、という。しかしながら正社員は依然として消滅していない。よって④の低コスト機能は存在しない(or無視して良い)・・・というのである。この主張は全編にわたって何度も繰り返されて、④の低コスト機能が否定されるべきことを再三強調している。
(ただし著者は、「だから非正規労働は低コストではない」と言いたいのか、「非正規労働が低コストだとしても、その機能を使用者は重視していない」と言いたいのか、本書を見た限りでは判然としない。)

しかし私見では、ここまで極端なことを言わなくても、特定の分野だけでみれば、現に④の低コスト機能が働き、正社員の減少や消滅は見受けられると思う。端的な例が高卒・短大卒の「一般職」の女子事務職である。多くの企業では、一般職女子の採用をやめて、派遣社員によって代替している。これこそは、低コスト化を企業が求めた結果として、特定分野限定の部分的なレベルで、まさしく著者のいう「正社員の消滅」「(一定分野の)全員の非正規化」が実現した例ではないのか。

もう一ついうと(④はとりあえず措くとして)、「非正規労働は上記①②③の機能を持っている」というよりも、「①②③それぞれに対応する非正規労働の様々なパターン」が存在する、というほうが正確なのではないだろうか。「非正規労働」という単一・同種の集団が存在して、それが①②③の機能を持っているわけではない。①②③それぞれに応じて、様々な非正規労働が利用されるというだけなのである。

(身も蓋もない言い方をすれば、たとえば、解雇しやすさ(②)前提で雇用された非正社員に対して「お前の契約には①の人材選別機能もあるのだ」などと言っても意味がないし、言うわけもないだろう。というより、造船業や自動車製造業での正社員登用前提の「準社員」「期間工」と、不安定な日雇い派遣やアルバイトをひとくくりにして「非正規労働の機能は何か?」と包括的に論じる意味がどこまであるかという問題にもなってくるが。)

なお本書の終章で提案されているのは「a 非正規労働者の正規への昇格制の整備」「b いいかえれば、上記の条件つきで非正規労働者制の存続」であるが、具体性に乏しく、また非正規労働者を正規に昇格させる意思のある企業はもともとそのようにしているはずであって、あまり実益があるようには思えなかった。

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