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三浦瑠璃「日本に絶望している人のための政治入門」

三浦瑠璃「日本に絶望している人のための政治入門」(文春文庫)

本書の前半では、国内における政治勢力の分類と対立の現状についての評価、また各種の政策的論点について触れており、後半では、外交や安全保障について論じている。

前半は特に目新しい知見というものはなく、著者なりの観点で「保守」「リベラル」とされるそれぞれの立場の主張がある程度整理され、それについて著者なりのコメントというかアドバイス?のようなものが呈示されている。

総じて著者は基本的に自民党政権、さらにいえば安倍政権に対して親和的である。著者が安倍政権に好意的な理由は、もちろん安倍政権のやることは何でも良いという意味ではなく、また安倍政権が“伝統的”もしくは“復古的”だからということでもなく、安倍政権がグローバル経済を踏まえてアベノミクスを進め、「開かれた保守」を目指す路線だから、ということのようである。
(「アベノミクス」がなぜ日本にとって望ましいのか、その長所と短所の兼ね合いはどうなのか等については、著者は具体的な論証は特にないまま、これを支持する態度を示している。この点は読者がアベノミクス自体は支持することを自明の前提にしているかのようである。)

前半は全体に、ページ数の制限もあり、またブログから起こした著作ということもあるのだろうが、全体的にどこか総花的で、右も左もいろいろな立場の勢力をほどほどに持ち上げつつ、広く浅く批評して済ませているという感じで、不完全燃焼という印象を受ける。

細かい部分を挙げていく余裕はないが、気になった点を一つ。

「日本のフェミニズム運動は相対的に富裕で、文化・教養層に多い専業主婦の権利を重視する形で進展します。これは、フェミニズム運動を幅広い層に受け入れやすいものとする効果があった一方で、運動の求心力を削ぐことになりました。フェミニズム運動が内部に路線対立を抱えた結果として、労働参加や、指導的な立場の女性比率などの死票で国際的に劣後する状況が続きます。」(本書148頁)

私の理解では、いわゆるフェミニズム運動(思想)は、そもそも「専業主婦」のようなカテゴリーの存在自体を批判的に検討するものだと思っていたのだが、ここで著者がいう「フェミニズム運動」とはまったくそれとは違うもののようである。おそらく著者のいう「専業主婦重視のフェミニズム運動」とは、たとえば主婦連合会のようなものを指しているのではないだろうか。そうだとすれば、「フェミニズム運動」ではなく「女性の運動」とでもいう言い方にするべきであろう。

 後半部分は、前半のどこか総花的で歯切れが悪いところから一転して、かなり明確に著者の主張が伝わってくるばかりでなく、随所で、断片的ながら切り口の鋭い説明も見られる。
 たとえば「米政府の外交・安全保障政策は、日常業務を管理する専門家と、中長期的な戦略を主導する政治的基盤を有する素人という二層構造によって担われています。」(本書227頁)という箇所。これは、外交や安保の日々の業務は、官僚や専門家が担当しているが、中長期の戦略について決定するのは要するに選挙で選ばれた政治家=素人(大統領や国務長官)ということであって、普段から米国の外交を見る際に意識するべき点かも知れない。

 以下おおざっぱに紹介すると、集団的自衛権について論じた部分では、基本的に集団的自衛権の行使は「当然可能」であるというのが著者の立場である。そのうえで憲法解釈の問題については、これまで「精巧なガラス細工のような法解釈」によって、現実と憲法の理念の矛盾をごまかしてきたということを前提に、そのごまかしを憲法改正によって正面から解決するのではなく、解釈を変更して新たなグレーゾーンを作り出すことで切り抜けることを提唱している。(「憲法改正すべき論」は、むしろ「立憲主義を方便とした現状維持であるのがみえみえ」だからということで、著者は賛同していない。要は「憲法改正をしようとしても、どうせ実現困難だし国民投票で否決されるから」ということであろう。)この点は、安倍政権の便宜的な解釈変更路線の追認ということが言えるだろう。

 また、クリミア問題等に関してロシアに強硬姿勢で望もうとするのには反対し、日韓関係ではリベラル勢力とのパイプを(日本の政官界が、ということだろう)強めるべきだと提唱する。興味深いのは沖縄問題についての発言で、将来的には米軍撤退をみすえてアジア諸国の連合的な組織の「首都」(欧州でいうブリュッセルやストラスブールのような)を目指すべきだとしている。

 オバマ政権に対しては「レトリック重視で成果がない」として非常に厳しい評価を下している点が興味深い。

 本書は、日本の進むべき道を示す本というよりも、安倍政権ないし自民党を支持する人々の中にはこういう傾向を持つ人も多くいるのだろうなという認識を深めるのに役立つ本である。いわゆるリベラルとか野党支持派の人々は「安倍政権=復古だから阻止せよ」というような言説に依存しているが、安倍政権が高い支持率を誇っているのは、「復古」的でない人々も数多く支持しているからである。安倍政権を好ましく思わない人こそ本書を読み、「こういう傾向の人々も安倍政権を支持しているのだ」ということをまずは認識するべきではないだろうか。
 この著者が優れた主張をしているかどうかはとりあえず措いておいて、この著者のような認識を持つ人々も数多く自民党を支持しているのであって、その現実をまず見なければならないのである。

 また、自民党や安倍政権を支持する人々の中で、この著者は「復古」(日本会議的なもの?)の傾向に内部から(柔らかく)ブレーキをかける意図が(主観的には)あるのかも知れない。外部から批判するよりは内部から発言した方がまだしも効果的だからである。・・・と書いたら誉めすぎであろうか。

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