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濱口桂一郎「若者と労働」

濱口桂一郞「若者と労働」(中公新書ラクレ) について。

「新しい雇用社会」「日本の雇用と労働法」でも示した認識を踏まえて、本書は日本のメンバーシップ型の雇用システムの中で特に「若者」がどのような位置づけにあり、それがどのように変容してきたかを、雇用政策の変遷も含めて論じている。

近年、終身雇用を批判する論者たちの中で、①「終身雇用制があるから若者の就職難が起こる」とか②「中高年の人件費が高いから若者世代にしわ寄せが及ぶ」・・・という類いの大雑把な主張をする人が時々見受けられるが、本書はこのような短絡的な主張を批判する。
まず上記①の論点についていうと、仮に欧米のように、終身雇用ではなくゆるやかな解雇+欠員採用のシステムを前提とした場合、むしろ何らのジョブスキルもない新卒者こそ(必要な職務の欠員に充当できないから)就業がいっそう困難となるはずである。
また、②についていうと、日本企業では人件費が高いからこそむしろ中高年が優先的にリストラの対象となり(日本の場合は「解雇」よりは「希望退職」「退職勧奨」やもっと陰惨な形を取ることがあろう)、若い従業員はリストラ対象となる順位は極めて低くなっている。ただしそのようなリストラを要する事態になった場合、企業は新卒採用も絞り込むだろうから、新卒の求職者にしわ寄せが来ることは事実である。つまり同じ“若者”でも、既に企業のメンバーシップの内部に運良く入り込めている者と、そうでない就職活動中の者との間で、大きな隔絶が生じることになる。この意味で割りを食ったのがたとえば“就職氷河期”の世代であり、この世代は新卒で就職できなかった者が多く発生しているが、その世代がそのまま中年を迎えている危機的状況についても本書は着目している。

また、教育訓練などを含めた雇用支援政策について、「新しい雇用社会」「日本の雇用と労働法」でも多少は触れられていたが、本書ではこれらの施策について、その歴史的推移や今後の課題を含めて、かなり詳しく紹介されている。(この部分でも紹介されている制度の一環だが、1990年代に「ホワイトカラーの職務について社会一般に通用する認定をめざす」等の言い方で、ビジネスキャリア制度の試験が始まり、当時会社員だった私自身、「法務2級」の検定試験を受けて合格したことがあるが、特に会社ではそれを顧慮するような仕組はなかったし、私も十分それは承知していた。ただ現在はまた状況が違ってきているかも知れない。)いずれにしても定職につけずスキルを身につけられないまま放り出されている人に対しては、まずは教育訓練をして労働市場内で何とかやっていけるようにするところから始めなければならないということになる。

著者が大学教育の現状に厳しい目を向けていることも、本書の際だった特徴である。たとえば文学研究者や哲学の教授が、日本企業の終身雇用や年功序列の世界を低俗なものとして否定したり、就職活動に追われる学生を非難するような発言をすることが無くもないが、これは本書の視点からいえば、天に唾する自殺行為ということになるだろう。日本企業の終身雇用・年功序列の世界があるからこそ、特に職業向けの勉強をしたわけでもない“非実学”系の学部を出た学生も(そこそこ有名な大学であれば)企業に就職できているのであって、そうでなかったら“非実学”系の学部や学科にはそもそも学生が来なくなると考えられるからである。

なお若者の雇用が主題であることから、いわゆるブラック企業問題についてもかなり詳しく触れている。
余談ながら、ブラック企業について「メンバーシップ型とジョブ型との悪いとこ取りだ」と評する人もいるが、私自身は、ブラック企業も基本的にはメンバーシップ型企業であって、それでいて様々な点が劣化していたり、メンバーシップ型であれば通常期待されるような長所が欠落しているのだと思っている。(ムラ社会が劣化して人間関係が悪化しても、都市型の市民社会の要素を取り込んだことになるわけではないのと同じである。)
なお、時代が違っていれば(いちおう良い意味で)典型的な日本企業になれたかも知れないのに、諸般の事情でなり損ねた企業(比喩的にいえば、環境変化のため、毛虫が蝶になり損なって、毛虫のまま大きくなってしまったようなもの)も多く存在するような気もするが、それはまた別なところで具体的に考えてみたい。

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