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濱口桂一郞「新しい労働社会」(続き)

昨日の記事の続きで、濱口桂一郎「新しい労働社会」についての簡単な紹介およびコメント(というほどのものでもないが)を少々。

序章 「問題の根源はどこにあるか」
昨日の記事で触れたとおり、日本の雇用システムの基本的構造の説明であり、以下の各章で取り上げる問題分析の前提となる要素を論じている。

第1章 「働きすぎの正社員にワークライフバランスを」
以前、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションの導入が議論になった際に、労働時間それ自体の規制ではなく残業代支払の有無の問題ばかりがクローズアップされた状況に苦言を呈し、無限定の残業などが当然のようにされている“正社員”の勤務のあり方を見直して、“今までの女子正社員”に想定されている勤務を基本型(デフォルト)にしたうえで、それ以上の勤務の負担を受け入れることを明示的に選択(オプトアウト)した者のみ、長時間の残業などの負担を課せられる制度への移行を提唱している。
単に抽象的に「ワークライフバランスを重視せよ」と言っているのではなく(その程度の発言なら他にいくらでもする人はいる)、具体的に「今までの女子正社員の働き方をデフォルトにせよ」という表現を用いているところにユニークさがあるのだが、この提案は世の中にあまり広く認知されていないように思われる(賛同されていないというのではなく、そもそもこういう提案があること自体、あまり知られていないのかも知れない。)
なぜ“今までの”女子社員の勤務が一つのデフォルトになるかといえば、女子正社員は「家庭との両立」を前提として勤務することがモデルとされている(されてきた)からであろう。つまり「“今までの”女子正社員をデフォルトにせよ」というのは、より端的にいえば「家庭と両立できる勤務をデフォルトにせよ」ということである。

なお余談ながら、私が企業で労務管理の仕事に携わっていた時に常々思っていたのは、「残業代の支払と、健康のための時間管理を、分けて考えられないか」ということであった。一定水準以上の賃金を支給されている労働者については、残業代の支払いは免除する。その一方で、健康のための労働時間管理は(従来以上に)徹底して行う。そのような制度にするべきと考えていたのである。そのまた余談であるが、使用者が労働者の労働時間を記録・把握するべき義務については、労働基準法上はそれを正面から規定した直接的な明文はなく、あくまで解釈上のものである。使用者の労働時間記録義務を労働基準法で明示するべきであろう。

第2章 「非正規労働者の本当の問題は何か?」
ここでは、本書執筆当時(の少し前)に偽装請負が大きな問題となったことを踏まえた議論がなされている。しかし筆者が指摘しているように、重要なのは、請負か派遣かの区分それ自体ではなく、労働者の雇用、社会保険、安全衛生上の責任をどのように明確化し管理するかなのである。
なお個人的には、請負か派遣かを問わず、「間接雇用」のような概念を労働法制に導入して、受入先事業主と派遣(送出し)元事業主のそれぞれの責任を明確化するべきだと思う。

第3章 「賃金と社会保障のベストミックス」
男女の性別の役割分担が明確であることを前提として、男性正社員(中心)の長期雇用の観点で作られてきた生活給に基づく年功的賃金のシステムが形成されてきた。かつては非正社員=パート・アルバイトは、この男性正社員に養われる「妻」や「子」が主として担っていたのであり、非正社員が家計を自ら支えることはほとんど想定されておらず、非正規社員のワーキングプア問題というのは極めて稀なものでしかなかった。しかし近年、大学卒業後に正社員になれないまま年を重ねる者や、中高年でリストラされる者が増加し、ワーキングプアが目に見える形で問題化してきたことが指摘されている。
また、(紆余曲折はあったものの、結果として)外部労働市場の整備や労働市場にいる求職者の(再)就職の促進よりも、現在企業内部に雇用されている労働者の雇用維持を優先してきた労働政策の限界や、職業訓練に対して冷淡な大学界・教育界の態度も指摘している。
従来的な生活給の基準による年功的賃金の維持が困難だとすれば、そのかわりに社会保障給付の拡充が求められることになる。また長期雇用が崩れてきている現在、失業者支援や職業訓練の充実も急務である。
これらは、第1章でいう「女子正社員」の働き方をデフォルトとした勤務管理の構築とも連動する課題であり、著者の言い方を借りれば「連立方程式」である。

第4章 「職場からの産業民主主義の構築」
前章までが個々の問題点と解決の方向性の提案だとすれば、この章は(それ自体が問題解決の提案ではあるが)、問題に取り組み解決を検討するべき労使関係の新たな仕組みについての提案である。非正社員が相当な割合を占めるようになってきた現状を踏まえて、非正社員も包括した労働者代表組織を設け、労使協議を行うようにさせることを提唱している。注目すべきは、現在の日本の主要な企業別組合がユニオンショップ制となっている現状に着目して(ただし「ユニオンショップ」という単語自体は本書では登場しない)、企業別組合がそのまま非正規労働者も包括した全労働者の代表機関の役割を果たすようになることを期待している点である。

なお、リストラのような状況では、正社員と非正社員の利害が対立する局面もあることから、正社員中心の労組は積極的に非正社員を組み入れたがらないと思われ、反対に非正社員の側も、労働契約の期間が比較的短く賃金も低い場合、組合費をわざわざ日常的に払って労組に加入するインセンティブが起こりにくい。そこで、法律的に強制された(非正社員も含めた)労使協議制を定めて、その中で非正社員が労働組合に包括されていくことを期待するということであろう。

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