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定年後の再雇用での賃金引下げと同一労働同一賃金

定年後再雇用、賃下げは「適法」 原告が逆転敗訴(朝日新聞記事)

上の報道にもあるとおり、ある運送会社の社員(トラック運転手)が、60歳の定年後に1年契約の嘱託として再雇用されたが、賃金は2割以上引き下げられたので、これを不満として、定年前と同じ賃金を支給するように勤務先の会社を相手として訴訟を起こし、東京地裁では勝訴判決を得ていたが、東京高裁では逆転、敗訴した。

世の中一般では、60歳を超えて定年後に再雇用する場合、従来よりも負担の軽い仕事に担当を変える例が多いのではないかと思うが、この事案では、トラック運転手という職務なので、特に仕事の内容は定年前と変わりはなかったようである。
(たとえば、50歳や55歳の時に比べて、60歳以降は運転する距離を短くしたとか、小型トラックの担当に変えたとか、そういうことではなさそうだ。)

高裁判決は、定年後に再雇用された者の賃金の減額について「社会的にも容認されている」と指摘し、60歳以上の高齢者の雇用確保が企業に義務づけられている中で、会社が賃金節約などのために、定年後の労働者と賃金を減額して契約を結んだことは、「不合理とは言えない」と理解を示したという。運転手側は最高裁に上告するというので、最高裁の判断が注目されるところである。

なお、報道によれば、この原告(控訴人)である運転手の代理人弁護士は、「『同一労働同一賃金』の議論が吹っ飛んでいる」といって、この高裁判決を批判したという。

「同一労働同一賃金」の原則をつらぬくなら、確かに「同じ労働なのに、60歳以降は賃金が下がるのはおかしい」ということになる。しかし物事には表と裏があるのであって、同一労働同一賃金の原則では、逆に、「同じ労働なのに、50歳が25歳より賃金が高いのはおかしい」という理屈にもなるはずである。

一般には、60歳以降の再雇用で賃金が下がるのは、年功・長期勤続の体系で、一定の年齢までは、賃金が年々上がっていく体系になっていることが前提になっているといえるだろう。
「同じ仕事なのに、60歳になると、なぜ賃金が下がるのか」ということを問題にするならば、「同じ仕事なのに、一定の年齢までは、なぜ賃金が年々上がるのか」ということも問い直さなければならない。同じ仕事なのに賃金が年々上がってきた人が、「同じ仕事なのに60歳以降賃金が下がるのはおかしい」と主張するのは、果たして論理的に筋がとおっているかどうか、である。
(ただし問題となっているこの事案の運送会社の場合、年功や勤続に応じて賃金が上がっていく体系になっていたかどうかは、報道ではわからない。ただ、毎年の昇給がほとんどないのに60歳で突然賃金が低い嘱託にされる、というのであれば、そのような扱いに合理性は認めにくいのではないか。)

一方、この「同一労働同一賃金」の考え方を徹底していくならば、究極的には「定年」制度の存在すらおかしいという議論にいずれ至るだろう。同じ労働ができるのなら、年齢を基準として強制的に退職させるのは不当だということになるからである。企業経営側の視点でいっても、同一労働同一賃金ならば、60歳近い人間の人件費負担が特に大きいというわけでもないから、定年制度について合理的な理由は乏しくなるだろう。しかし定年退職がないとすれば、新卒を定期的に採用するというあり方も崩れていく。

(なお細かい法律論でいうと、この訴訟で運転手側は、このように賃金を下げた取扱が「労働契約法20条違反」だという主張をしている。

ここで注意しなければならないのは、この労働契約法20条は、「高齢者の賃金引き下げ」を禁じているのではなく、「有期労働契約」の労働者と「期間の定めのない労働契約」の労働者の間の労働条件の差別を禁じているということである。

「有期労働契約」とは、一般的にいえば、いわゆる有期雇用とか契約社員などと呼ばれるもので、半年とか1年とか、期間を区切った労働契約である。この運転手は、60歳の定年後は1年契約の「嘱託」に変更されたので、これにあたる。
「期間の定めのない労働契約」は、特に契約の期間を限定しない労働者であり、一般的には、いわゆる終身雇用の正社員はこれにあたる。この運転手も、60歳まではこの正社員だった。

つまり、この裁判で運転手側が主張したのは、正確にいえば、「60歳を超えた者を賃金で差別するな」ではなく、「60歳を超えると1年契約の有期労働契約(嘱託)になるが、有期労働契約を賃金で差別するな」ということになる。)

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