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いわゆる識者が書いた本を読むのはその賛同者だけである件

 姜尚中と森巣博が2002年に出した対談の『ナショナリズムの克服』(集英社新書)という本がある。
 この本の腰帯には「上野千鶴子氏絶賛!」と書かれていて、さらに「『治ってしまえばあれはビョーキだったとわかる、爽快なナショナリズム論』」という上野千鶴子の賛辞らしきものが並んでいる。
 (当時読んだ私の記憶では、この腰帯のキャッチフレーズの上野千鶴子には若干違うバージョンがあって、「これを読めばナショナリズムはハシカのようなものだったとわかる」と書いてあったような気がするのだが、記憶違いかもしれない。今手元にないので確認できない。)

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 この腰帯の上野千鶴子の推薦の言葉を読んでいると、少しおかしなことに気がつく。主張がおかしいという意味ではなく、どういう層に向けて上野千鶴子は語りかけているのかという点である。
 だいたいこの本は、一体どういう読者にむけて書かれたものなのだろうか?
 ナショナリズムに囚われて偏見に満ちた人間に読んでもらって、ナショナリズムという“ビョーキ”を“克服”してもらうために書いたのか?
 正論やWiLLあたりを愛読している人に読ませたいのだろうか?

 そもそも正論やWiLLの読者は、「上野千鶴子氏絶賛」という腰帯を見たところで、買う気を起こすわけがないばかりか、逆に、自分が読むべきではない本だと考えるだろう。
 (2002年時点の上野千鶴子は、『おひとりさまの老後』(2007年)をまだ書いておらず、今よりも一般の読者にはなじみが薄かったはずである。というよりいわゆるフェミニズムに関心を持つ人ばかりが上野千鶴子を読んでいたと思う。)

 この本を上野千鶴子が「治ってしまえば、ナショナリズムはビョーキだったとわかる」といって推薦したところで、上野千鶴子の推薦文を見て読んでみる気になるような人間は、もともとナショナリズムという“ビョーキ”にはかかっていないのである。

 そう考えると、『ナショナリズムの克服』を買って読む人間は、実質的には、既にナショナリズムを“克服”している(つもりの)人間だけということになるだろう。

 もう一つ例を挙げてみよう。樋口陽一が『いま、憲法は「時代遅れ」か - <主権>と<人権>のための弁明(アポロギア)』という本を出しているが(私は未読)、まず樋口陽一のこの本を買うのは「日本国憲法は時代遅れだ」などともともと思っていない人間ばかりだろう。この本のタイトルの「アポロギア」という言葉は、「ソクラテスの弁明」のイメージを下敷きにしたものだろうが、日本国憲法は時代遅れだからすぐ変えろ、と決めてかかっているような人たちは、そんなちょっとしたタイトルの工夫に興味など持たないだろう。 
 (もちろん例外がいても不思議はない。たとえば往年の田中美知太郎や福田恒存のような保守の論客だったら、このタイトルを見てなにがしか感じて手に取ってくれるかも知れない。そういう人を想定して書いたのだろうか。)

 もともと何かを論じる著作というのは、すべてこういう運命なのだと言ってしまえばそれまでなのかも知れない。Aという立場で何かを論じた本は、Aに賛同する人間しか読まない。Bという立場の本も同じ。そういうことだろうか。そうなると何も広がっていかないということになるだろう。

 あまり良い例ではないかも知れないが、たとえば香山リカの本を読む人間は、香山リカにもともと好感を持っている人間だけで、百田尚樹の本を読むのも、百田のファンのような人間だけということになる(ちなみに私はどちらのファンでもないが。)。
 問題は、おそらく百田を読む人間の方が香山リカを読む人間よりかなり多そうで、現状のままだったら後者が不利だということである。現状で良いと考えている人はそれで構わないのだが、現状を変えたい人は、果たしてそれで良いのだろうか。

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