最近のトラックバック

人気ブログランキング


フォト

« 時間をかけなければ成果が出るわけがない!労働時間と成果には関係がある! | トップページ | 香山リカがチャンネル桜および出演者に対して訴訟を提起 »

東京メトロ売店の正社員と契約社員の「差別」問題

 東京メトロの売店を運営する子会社に雇用された契約社員(非正規)が、同じく売店にもっぱら従事している正社員との間で、賃金などの処遇に違いがあるのは、労働契約法20条に違反した差別だとして、会社側を訴えた訴訟が東京地裁に係属していたが、3月23日にその判決があった。

 (いろいろな報道があるが、BuzzFeedのこの記事が比較的詳しい。) 

 本ブログの以前のエントリでもこの事件について触れたことがあるが、これまでの報道で見た限りでは、経緯はおおむね次の通りである。

 東京メトロ子会社には、正社員と契約社員の両方が雇用されていて、①正社員の中には、売店業務しか従事しない者も、そうでない者もいるが、②契約社員は、売店業務しか従事していない。
 そして契約社員が、「売店業務しか従事しない正社員」と比較して、担当する業務はまったく同じであるにもかかわらず、賃金その他で劣った扱いを受けるのは差別だとして訴訟を提起したのである。

 これについて東京地裁は、「売店業務しか従事しない正社員」ではなく「すべての正社員」と契約社員の労働条件を比較して、その差異には合理性があり、不当な差別ではない、と判断したということのようである。(正社員には、配置転換、職種変更や昇進の可能性があるが、契約社員にはそれがない、等々)

 これに対して原告側は、契約社員と比較すべきなのは、「すべての正社員」ではなく「売店業務しか従事しない正社員」だ、と主張している。
 「売店業務しか従事しない正社員」と「契約社員」は、どちらも仕事は同じ売店の業務で、しかもそれ以外の仕事に就くことはないのに、なぜ扱いが違うのか、というわけだ。

 これはどう考えるべきなのか。

 報道から見る限りでは、「売店業務しか従事しない正社員」も、それ以外の正社員も、すべて同じ就業規則の体系の中で勤務している。つまり、正社員はすべて、最近流行の言い方でいえば「ジョブ無限定正社員」ということになる。

 会社の扱いとしては、売店業限定だろうと、管理職候補だろうと、とにかく「正社員」は一種類しかなく、明文の区別は何もないようである。売店業務しか従事しない正社員も、「売店限定の正社員」として採用されているわけではなく、単なる「ジョブ無限定正社員」に違いはないのであって、そのうえで、“結果として”売店業務だけを行ってきただけだ、ということなのだろう。(もちろん正社員同士の間でも、賃金や資格などの違いはあるだろう。それは同じ賃金や処遇の体系の中での違いである。)

 このような中で、「売店業務しか担当していない正社員」と「契約社員」を比較して差別を論じるロジックは、実はなかなか困難な面がある。
 会社の理屈では、「正社員」には「ジョブ無限定の正社員」ただ一種類しか存在しない。「売店業務しか担当しない正社員」などというのは、制度上は存在しないのである。もちろん現実には、売店業務しか担当していない正社員もいるのだが、それは、ジョブ無限定の正社員が、“たまたま”“結果的に”そうなっているというだけということになる。従って、「ジョブ無限定の正社員全般」と「(売店しか担当しない)契約社員」とを比較すべきだということになる。そして東京地裁の判決も、この会社側の理屈に沿ったようである。

 ただし、これはタテマエの世界の話であって、ホンネはもちろん違うだろう。

 ホンネレベルでいえば、おそらく一定の正社員(学歴や性別や入社時の本人の希望などで区別しているはず)については、売店業務しか担当させないという不文律の扱いがあるはずである。ただし、それは決して契約や就業規則のような明示的な形で表に出てくることはないだろう。

 日本の多くの大企業では、将来の管理職候補と目される大卒も、売店や工場勤務を前提として採用された者も、労働契約書や就業規則でその職務を明確に限定・区別されているわけではない。
 もちろん入社時点の学歴その他の要素で、初任給に違いはあるだろうし、担当する業務に応じた賃金の違いが多かれ少なかれあるだろうし、様々な要因で資格や役職や昇給に違いは当然出てくるが、どれも同じ一つの「正社員」の処遇の体系の中の位置づけの違いにすぎないのである。

 本社の幹部要員だろうと、工場や売店の担当者だろうと、「同じ正社員」というタテマエの中で守られているのだ。(実際、一般的な大企業では、工場や売店に勤務することを期待される正社員の大半は、工場や売店だけでその会社生活を終えるのだろうが、中には違う職種に移動するケースもなくはない。)

 さて、実際問題としてどう考えるべきなのだろうか。
 会社や裁判所のように、
 「正社員の中には職務の区別はない。売店だけを担当している者は、たまたまそうなっているだけだ。だから正社員全般と契約社員を比較して、不当な差別かどうかを判断すべきだ。」と考えるのが妥当なのか。
 それとも原告側のように
 「正社員の中には、売店だけを担当する者もいる。その者だけと契約社員を比較すべきだ。」
 と考えるべきか。

 後者の原告の理屈を推し進めると、実は別な問題が出てくる。

 つまり「売店しか担当しない正社員がいるなら、逆に、その賃金が高すぎるのではないか。本当はもっと低くして、契約社員に合わせるべきではないか。なぜ契約社員よりも高い賃金を払っているのか」という議論が出てくる可能性があるのだ。

 というより、会社の本当の奥深いところにあるホンネは、それなのではないかと私は疑っている。会社は、売店の契約社員の賃金を正社員よりも低く抑えておきたいのではなく、逆に、売店担当の正社員の賃金を低く下げたいと考えているのではないだろうか。ただ、正社員の賃金を下げるのが極めて困難(法的論点にはここでは立ち入らないが、労働条件の不利益変更の問題である)であるため、それができないでいるだけなのではないだろうか。

 この件の経緯についての私の推測は、以前の記事でも触れたとおりだが、

 (1)売店業務を担当するのは、もともとはすべて正社員だけだった
 (2)しかし会社は、売店業務は、いずれすべて契約社員に置き換えて、正社員ゼロにすることを考えている
 (3)そこで、売店業務に契約社員だけを採用して配属するようにして、新たな正社員の配属はやめた
 (4)現在売店に勤務している正社員については、定年で退職するのを待っている状態。
 (5)従って現時点では、売店に正社員と契約社員の両方が混在する状態になっており、「同じ仕事なのに労働条件が違う」という問題が起こっている。
 (6)しかしいずれ正社員は定年でゼロになり、売店業務を担当するのはすべて契約社員だけになるから、その時点で差別という問題が「解決」することを会社は期待している

・・・ということではないかということである。

« 時間をかけなければ成果が出るわけがない!労働時間と成果には関係がある! | トップページ | 香山リカがチャンネル桜および出演者に対して訴訟を提起 »

ニュース」カテゴリの記事

人事・労働」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/454842/70062044

この記事へのトラックバック一覧です: 東京メトロ売店の正社員と契約社員の「差別」問題:

« 時間をかけなければ成果が出るわけがない!労働時間と成果には関係がある! | トップページ | 香山リカがチャンネル桜および出演者に対して訴訟を提起 »

2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ