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「解雇規制」って、本当に存在するの?

 ちょっと人目を引こうと思ってわざと極端なタイトルをつけてみたが、正確にいうと

 「日本では、いろいろと解雇が困難な(日本特有の)事情があるのは事実が、それを『解雇規制』と呼ぶのは妥当ではないんじゃないの?」

というニュアンスである。

解雇規制を緩和して、解雇しやすくしろ」という議論は今もあちらこちらで見かけるが、「解雇しにくい」のは、「解雇規制」のせいなのだろうか。風俗営業規制とか騒音規制のようなレベルで「解雇規制」があって、企業が解雇したくてもできないのだろうか。そうではなく、解雇が難しいとすれば、それはもっと別なことが理由ではないのか。
 (後で少し触れるが、法律上は、何でもかんでも解雇し放題なわけではなく、一定の「解雇規制」はもちろん存在する。ただし「正社員を解雇してはならない」とか「正社員を解雇するには労働基準監督署の許可を要する」などという法規制があるわけではない。)

以前のエントリ「解雇しにくい社会」は、日本企業が自分から産み出したものだ!」でも書いたことだが、改めて述べておきたい。

まず具体的な例を仮定して考えてみよう。

ある会社に、「仕事のできない」中高年従業員がいた。名前はX氏。このX氏は、職務遂行能力がない奴と判断されたり、人間関係でうまくいかなかったり、まぁいろいろな事情で、あっても無くても良いような雑用だけをやることになった。いわゆる窓際族である。

会社はいわゆる年功賃金制度であり、X氏もそれなりの賃金をもらっている。

ある日、とうとうシビレを切らした会社はこのX氏を解雇しようと考えた。ただ実際に解雇するとなると、確かにいろいろと面倒なことになるのは事実である。

まず30日前に予告して解雇する必要がある(労働基準法20条1項)。これは確かに解雇規制の一種ではあるが、別に難しいことではない。
ここでX氏がおとなしく解雇を受け入れたら、もちろんそれで万事解決である。

次に、X氏が労働基準監督署に駆け込んだら、どうなるか?

状況にもよるだろうが、会社としてはこの段階では、それほど心配はする必要はない。労基署は、賃金不払や労災など白黒の判断が簡単につく問題については割と動きやすいが、解雇のように複雑な事情や判断が必要な問題では非常に動きにくいのである。

では、X氏が「解雇は無効だ」といって、弁護士に相談して(または本人訴訟で)裁判所に訴訟や労働審判の申立を提起をしたらどうなるだろうか?

本当に「解雇の難しさ」が浮き彫りになるのはここから先なのである。
(ただしこの段階に来るまでに諦めて泣き寝入りしてしまう人も多い。なお他にあっせん手続というのもあるが、ここでは省略)

X氏が「解雇は無効だ」と主張して訴えを起こしたからには、会社としては当然「解雇は有効だ」と言って反論しなければならない。解雇が有効であることを会社は主張・立証する必要がある。
では、どうすれば解雇は「有効」だということになるのだろうか。

労働契約法16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という定めがある。
つまり会社としては、解雇に合理的で、なおかつ社会通念上の相当性があることを主張・立証すれば良いのだ。ここでは一応簡潔にまとめて解雇の「合理性・相当性」と呼んでおこう。

さて、「仕事ができない人間を解雇するんだから、当然、合理性・相当性があるはずだ」と思った会社は、「X氏は仕事ができないので、使えません。だから解雇しました」等等と主張する。

これに対してX氏側弁護士(または裁判官)は何というだろうか。

「窓際族っていうけど、具体的に今、何の仕事を担当させているんですか?」
「ほとんど仕事をさせていないって?じゃあ仕事をさせればいいでしょ。仕事をさせるのは会社の役割ですよね。」
「使えない?具体的にどう使えないのか、証明できますか?記録あるの?仕事の成果はどうやって確認してるの?」
「雑用しかやらせてない?その雑用を一通りこなしているなら、ちゃんと職務を果たしたことになるんじゃないの?」
「お宅の会社には、他にもいろいろな職種があるでしょ。他の仕事をやらせたらいいんじゃないんですか」
「職種を変えるローテーションや転勤は、お宅の会社では普通にやっていますよね。だったら、この人も、職種を変えてみたらいいんじゃないですか。」
「賃金に見合った仕事をしてないって?中高年で賃金が高い?年功賃金にしたのはお宅の会社の勝手でしょ?仕事に見合った賃金体系にすれば良かったんじゃないの?」

…等等の議論になるだろう。何となく「使えない」「能力がない」というだけでは、漠然としすぎており、まったく反論にならない。
上記のような議論に具体的に答えることができなければ、「解雇に合理性・相当性がある」ことは裁判所に認めてもらえないだろう。そこが難しいのだ。

一般的に言って、会社というものは(少なくとも日本の会社は)、必ずしも従業員の職務を具体的に細かく定義して、何が達成できたかをチェックできるようにしているわけではない。
特に窓際族のような立場となると、軽い仕事を担当させられることが多いが、そうなるとかえって「仕事ができない」ことの証明が難しいという逆説さえ生じる。
たとえば「仕事ができないから、掃除だけやらせています。」という理屈では、逆に「掃除という「職務」をちゃんと果たしているなら、なぜ解雇するのですか?」ということになりかねない。
(「掃除を命じたのに、紙飛行機を作って遊んでばかりです」なら話は別。)

また、「仕事ができない」ということが証明できたとしても、ローテーションや転勤を普通に行っている会社であれば、「この人にも、他の部署・職務を担当させてみたらどうか。そこまでやらなければ仕事の能力は判断できないのではないか」ということになってしまう。

おわかりいただけただろうか。

解雇が難しいケースは確かに多いが、その解雇の難しさ(正確には「解雇が合理的で相当性があることを裁判で証明することの難しさ」)の理由の大半は、実は日本企業が自分から作り出しきていたものなのだ。

政府が勝手に解雇規制をしたので、企業が抑圧されて解雇できなくなっている…というわけではない。タクシーの参入規制とか、大学の新設規制とか、薬品の通信販売規制などとはわけが違うのだ。

日本企業の仕事のさせ方では、いざ解雇したくなった時に、解雇の合理性・相当性が立証しにくいことが多い」というのが当たっているのではないだろうか。

(★ここまで読んで、「整理解雇の4要件の話はどうした?」という人がいるかも知れない。しかしここで述べたX氏のケースは、整理解雇ではない。単に特定の1人の従業員X氏を、仕事が出来ないことを理由として解雇しようとしているだけである。
  整理解雇はこれとはまったく違う。整理解雇とは、無能なX氏だろうと有能なY氏だろうと関係なく、経営上の労務調整の必要のため、やむなく人員を削減する目的で行う解雇のことである。混同してはいけないのだが、各種のブログや記事を読むと、時々ごっちゃにしている人がいる。整理解雇の問題は、また機会を改めて考えてみたい。)

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